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一気に500ページオーバーを読破<タックスヘイヴン> [本棚]

最近よく話題に上るタックスヘイヴン(租税回避地)を題材にした小説です。

530ページほどありますが、一気に読み終えてしまうほど面白く、話の展開自体もスピード感があります。

ストーリーについて書きたいのですが、「ネタバレ」必至ですので、敢えて書きません。日本で映画化したら国際的にヒットすると思いますが、どなたか手掛けてみませんか。日本映画は質が高いので、国際的な題材を取り上げたらいいなぁと思います。

解説をインテリジェンスについて詳しい元外務省主任分析官・佐藤優氏が書いています。佐藤氏も内容に触れずにうまく解説を書かれたと思います。


私がタックスヘイヴンについて初めて知ったのは91年。以前から聞いてはいたものの、多くの人同様に、最初は「タックスヘイヴンtax haven(租税回避地)」と「タックスヘブンtax heaven(税金天国)」の違いはよく分かりませんでした。

そもそも「税金天国」という言葉自体がおかしな言葉で、ちょっと考えたら首をかしげるでしょうけど、当時は「税金を払わなくてもよい夢の国」だと思っていました。

世の中はまだ比較的単純で、当時は単純なマネーロンダリングのスキームしかなく、摘発も捜査局の捜査員でも十分可能と思われていました。いい時代です。ジョン・グリシャムの小説『法律事務所』(1991年)では、事務所の自家用機にロンダリングしたお札を積んで実際にケイマンに運ぶ場面が出てきます。

現物(現金)を実際に輸送するのは、最も安全ですが、最も危険な方法です。

最も安全なのは現金の特性として確保されている匿名性が発揮できるからです。誰から来たお金か、どこから来たお金か、分かりません。それらは取引記録や銀行の残高証明があればある程度「紐づけ」できますし、今ならば電子的に記録があちこちに残っていますが、通貨として重要な機能の一つが匿名性であることは変わりません。

最も危険なのは、現物の喪失、紛失、盗難に対応できないからです。違法なお金を別の人に盗まれた時、警察に「不正な手段でためたお金を盗まれたので、犯人を捜してください」とは言いにくいと思います。帳簿に記載のないお金が存在しても困ります。つまり、この現金を保有・保持している現場をとらえられたら、言い訳ができないという弱点があります。

以前観た映画『The Wolf of Wall Street』(2013)では、現金をスイスに運んで銀行口座に入金する場面がありました。1990年代が話の中心のため、90年代はまだ回避地に現金を物理的に運ぶことは普通だったのかもしれません。

今では為替、税法、国際法、金融取引の専門知識がないととても暴くことができないほど複雑になっています。電子取引の普及で、そのスピードも上がり、たとえスキームを暴いても取引自体がとっくの昔に完了してしまっている可能性もあります。

さて、最近話題になった「パナマ文書」。租税回避地パナマにある法律事務所のモサック・フォンセカMossack Fonsecaから顧客情報が漏れたわけですが、日本の大企業のいくつかも名を連ねましたが、政治家や政治家につながる実業家(ロシアや中国等)の名が取り沙汰されました。

租税回避地ですので、ファンドを設置することは違法でもなんてもなく、ビジネスとして問題はないものの、非常に印象が悪いですよね。そのうち、ケイマンやバミューダ、ガーンズィー、マン等の島々もファンド設置が難しくなる可能性がありますね。

米国人と先日話をした際に共有した認識は、米国人の名があまり出てこないのは当たり前で、パナマと米国の関係を知っている者ならばパナマに資金を「隠したり」しないというもの。パナマに資金を移している米国人がいたら、「初めから租税回避ではなく、脱税の意図があると疑われても仕方がないよね」という結論でした。

実際に笑ってしまう話ですが、米国は国内に租税回避地があるので、外国にそれを求めなくてもいいのです。だから、国外に資金を移すような、特にパナマのように米国との関係が良好でない国に資金を移すような行為は、初めから怪しいと考えられます。

米国は連邦制と言ってもよく、州ごとに法律も税率も違います。たばこ税が違うため、隣の州で煙草を大量に購入して、こちらの州に戻って販売しようとしたら犯罪をなります。隣の州に野菜を買いに行って低い消費税の対象にしてもらうこともできます。

会社の登録税や法人税も州ごとに違うので、別の州に会社を登記して活動する会社もたくさんあります。例えば、デラウェア州に登記の株式会社の主要なオフィスがニューヨーク市にあるケースは結構あります。

今後ますますニュースを騒がせるであろう「租税回避地=タックスヘイヴン」は、言葉が急速に一般化していくとともに、使いにくさが増していくでしょうね。

tax-haven.JPG
<本のデータ>
ISBN 978-4-344-42466-1
「タックスヘイヴン」
橘玲、幻冬舎文庫

東南アジア最大のタックスヘイヴン、シンガポールのスイス系プライベートバンクから1000億円が消えた。日本人ファンドマネージャーは転落死、バンカーは失踪!マネーロンダリング、ODAマネー、原発輸出計画、北朝鮮の核開発、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ…。名門銀行が絶対に知られてはならない秘密とは?そして、すべてを操る男は誰だ?(「BOOK」データベースより)

2016/06/01<晴>
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